フィン・ユールの椅子は、従来のデンマーク家具に見られる機能主義的な直線や質実剛健な作りとは一線を画し、有機的な曲線と視覚的な軽やかさを備えています。フレームとシートを物理的に分離した「浮遊する構造」や、彫刻作品のような美しい「有機的なフォルム」などは、フィン・ユールの椅子の代名詞とも言える特徴です。

　　　

その代表作のひとつが、1946年にデザインされたBO59チェアです。BO59は、美しい曲線を描くアームレスト、浮かぶように軽やかなシート。そして座面下の交差した貫の精緻な接合部など、細部に至るまで有機的な美しさが宿っています。

　　

その一方で、座り心地や構造強度といった実用性もしっかりと確保されており、まさにフィン・ユールの芸術性と椅子としての機能が共存している作品です。

　　

BO59チェアの製造を担ったボヴィルケ（Bovirke）社は1940年代に創業したデンマークの家具メーカーで、フィン・ユールとの数々の協働によって知られています。

　 

特徴的なのは単に図面通りの家具を生産するのではなく、デザイナーの構想を実現するために必要な素材の選定から仕上げに至るまで、積極的に提案と調整を行う“技術的な協働者”としての姿勢です。これは当時の多くの家具工房とは異なる、より密接で創造的なパートナーシップの在り方でした。そのためボヴィルケから生まれた家具には、デザイナーの意志と職人の技術が一体化した高い完成度が宿っています。

　　

目を奪われるような彫刻的フォルムと、実際に腰掛けたときに感じる快適さ。この椅子には、フィン・ユールと美的感覚とボヴィルケの技術が見事に結晶しています。

■TYPE-A

■TYPE-B