デンマークの巨匠ハンス・J・ウェグナーは、生涯で500脚以上の椅子をデザインし、素材への敬意と人間工学的な快適性を追求しました。家具職人としての出発点から得た木材の知識は、彼の椅子に実用性と彫刻的な美しさを同時に与えています。

そのビジョンを形にしたパートナーのひとつがGETAMA社でした。海藻マットレスの製造から始まった同社は快適性に強みを持ち、ウェグナーとの協業によってGE290やGE258といった名作を発表し、デンマークモダンを一般家庭に広めました。

1970年頃に生まれたGE500イージーチェアは、無垢のオーク材フレームと厚みのあるクッションが特徴です。安定感と快適さを重視したこの椅子は、軽やかさよりも生活の中でくつろぐための実用性を重視し、家庭に溶け込む存在となりました。特に脚部のデザインは注目に値します。しっかりとしたオーク材のフレームから伸びる脚は、力強さと端正なプロポーションを併せ持ち、キャスター仕様によって機能性を高めながらも、全体のフォルムを損なうことなく美しく収められています。

GE500は代表作と比べると知名度は高くありませんが、その落ち着いた存在感と細部まで行き届いたデザインは、ウェグナーとGETAMA社が目指した「生活に根ざすデンマークモダン」を静かに体現しています。コレクターにとっても、隠れた名作として価値を持ち続ける一脚といえます。