ハンス・オルセンが1955年にデザインしたモデル134チェアは、デンマーク・モダニズムを象徴する作品の一つです。製造を担ったのはN.A. Jørgensens Møbelfabrikで、後のBramin社として知られるメーカーです。シンプルでありながら独創的なフォルムは、同時代のデンマーク家具の中でも異彩を放っています。

このチェアは「The Orange（オレンジ）」という愛称で呼ばれています。座と背が独立した構造はオレンジの皮をむいた姿を連想させ、彫刻的な存在感を放ちます。愛称が示すように、機能的でありながら遊び心を忘れない点が、この椅子の最大の魅力です。

デザイナーであるハンス・オルセンはキャビネットメーカー出身で、後に王立芸術アカデミーでコーア・クリントに師事しました。職人としての経験と理論的な教育を背景に、人体工学と快適性を重視したデザインを数多く生み出しました。モデル134は、そうした背景から生まれた代表的な成果といえます。

製造を担ったN.A. Jørgensens Møbelfabrikは、1950年代に大規模メーカーへ成長し、やがてBraminへと改称しました。オルセンと同社の協業は、彼の実験的なデザインを形にする重要な基盤となりました。特にモデル134は、その製造力とデザイナーの独創性が結びついた好例です。

デザインの最大の特徴は、曲げ木を駆使した一体成型のシェルと、それを支える流れるようなフレームの調和にあります。滑らかなカーブは軽やかな印象を与えると同時に、座り心地の快適さを高めています。彫刻的で有機的な形態と実用性が一体となり、1950年代デンマークデザインの革新性を凝縮した作品といえます。