ハンス・J・ウェグナーは椅子のデザイナーとして広く知られていますが、その設計思想は収納家具にも一貫して表れています。Ry Møblerのために設計されたRY26サイドボードは、その代表的な例のひとつです。派手な造形ではありませんが、空間に置いたときには静かな存在感を放ちます。

RY26が生まれた1950年代後半は、デンマーク・モダンが国際的な評価を高めていった時代でした。この頃、ウェグナーの家具はSalescoという販売協同体を通じて世界へ広がっていきます。Ry Møblerはその中で収納家具を担当し、幅のあるキャビネットを安定して製作できる技術と設備を備えていました。RY26は、そうした背景のもとで形になった家具です。

RY26は幅が約2メートルありますが、高さが抑えられているため、思った以上に空間になじみます。視線を遮らず、部屋を広く感じさせてくれる点は、リビングとダイニングを一体で使う当時の暮らし方を意識したものだと感じられます。

RY26にはいくつかの仕様が存在しますが、なかでも構造的に特徴的なのが、いわゆる「特殊脚」と呼ばれる仕様です。単純な直立脚ではなく、本体フレームと噛み合うような形状を持ち、重いキャビネットを構造全体で支える設計になっています。この脚部によって、サイズ以上に軽やかな印象が生まれており、実物を見るとその効果をはっきりと感じ取ることができます。流通数も限られており、現在では希少な仕様のひとつです。

RY26は収納家具でありながら、空間を構成する要素として高い完成度を備えています。写真だけでは伝わりきらない素材感やバランス、構造の工夫は、実物を前にすることで初めて理解できる部分が多くあります。ウェグナーの椅子とはまた異なる視点から、そのデザインの奥行きを感じていただける家具です。